ノーカントリー(No Country for Old Men)/ジョエル&イーサン・コーエン監督


ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]


DVDにて視聴。第80回アカデミー賞で主要4部門(作品・監督・助演男優・脚色)を制した作品。

あまりにも強烈な映画で、見た当日はこの映画の夢にうなされてしまった。


受け身で見ているだけではダメで、受け手に主体的に「解釈」を要求するタイプ映画のため、見たあとにはネット上のレビューをくまなく読む、という作業も必要になる映画だった。

意図的に説明を極限まで廃した作り*1、特に終盤のあり方は、制作者の「独善」と言われても仕方ないかと思うが、ここまで実績を重ねてきたコーエン兄弟だからこそ許されているのだろう。

個人的には、こういう「制作者の独善」は嫌いではない。クリエイターに許された特権であり、そこに「説明不足」とか突っ込むのは野暮だと思っている。アマゾンレビューが5と1で分かれるような作品を、非難してはいけない。

とはいえ、こういう「独善的」な作品がアカデミー賞に叙せられ、一般大衆に提示されてしまっては、色々軋轢もあっただろう。正直、これ映画館で見せられたら、「おい、ふざけるな」と怒る人が多いと思う。

でも、アカデミー賞を得なければ「カルト映画」として位置づけられ、自分は決して見なかっただろうから、アカデミー賞には感謝したい。



この映画をしっかり論評するにはコーエン兄弟フィルモグラフィーをカバーしている必要がありそうなので、それをしていない自分が安易な解説をすることは差し控えたい。ただ、半端なく怖い殺人鬼シガー*2を一体、「何の象徴」だと解釈するか?だと思う。自分は「暴力」の象徴だと思いました。



独創的過ぎて、簡単にカタルシスは得られず、しかも、場合によってはトラウマになる映画なので、一般的にはお勧めしない。マゾっ気があり、映画を主体的に解釈するのが好きな方限定で推薦。最初に見た時はどっと疲れて、見た後呆然とすると思いますが。


その方が良いと思ったので、あえてあらすじと予告編を掲載しないでエントリを作ってみたが、原題が、No Country for Old Men ということだけは書いておきたい。「アメリカは、厳しすぎて、老人(古き良き常識人)には居場所がない国」というニュアンスだろう。

*1:例えば最後は「青信号」をもうちょっと強調するカットにしてくれてもいい気がする

*2:BGM無しの映画がこんなに恐ろしいとは知らなかった。あと、途中までこの人の名前が分からないのだが、名前の分からないヤツ、というのがどれだけ不気味か、人間がいかに「名前(ラベリング)」で認知を安定させているか、ということを痛感しました